伊那紬 工房見学へ行ってきました〈久保田織染工業〉

伊那紬 工房見学へ行ってきました〈久保田織染工業〉

伊那紬の織元へ

記事をご覧いただきありがとうございます。
きものKUREHAの崇原(そねはら)です。

当店のある長野県は、手織り文化の息づく染織産地であります。
特徴として、草木を材料とした糸の染めを自ら手掛けている工房が多く、今回ご紹介する伊那紬織元〈久保田織染工業〉も例に洩れません。

2025年7月に行う『伊那紬展』(きもの屋そねはら)を控えて、工房を見学させていただきました。


整経部屋に吊るされた染め糸

「伊那紬」唯一の織元である久保田織染工業。
現在、織り手さんは10人いらっしゃるそうで、伊那紬=久保田さん率いる職人の生み出す織物なのです。

ここ長野県においても、近年機を降ろされる工房があったりと、産地が継続していくというのは当然ではなく、その内には絶え間ない”戦い”のようなものが、あるのではないでしょうか。

四代目にあたる専務の久保田貴之氏が活躍する久保田染織工業。会社の歴史は100年以上にあります。長きに亘って、伊那紬が愛される所以はどこにあるのか。実際の織物に触れていただくのが一番ではありますが、魅力の一部をお伝えできればと思います。

 

縞・格子の源流

縞・格子を基調として、花織やかすりものまで展開する伊那紬。
色鮮やかでモダンなものから、民藝味を感じるものまで、幅の広さがあります。

伊那紬の特徴として、シンプルな縞や格子を発展させた図案があります。
「美しいキモノ」に時折、掲載される伊那紬をご覧になられた方は、その新鮮さに驚かれたかと思います。例えばこちらは、名古屋帯になりますが、横段と格子というオーセンティックな図案が、その組合せと配色で今様に刷新されています。

基本となっている縞・格子には、伊那紬のルーツを見ることができます。
久保田織染工業はJR飯田線 駒ヶ根駅近くにあります。中央アルプスと南アルプスに挟まれ、天竜川をかかえる伊那谷は、かねてより養蚕が盛んな地域でした。
比較的温暖で雪の積もらない気候は、桑の生育に適しており、山から吹き下ろす風が蚕の天敵である害虫の卵を桑の葉に付きにくくしているという。

養蚕のある地域が、染め織りの産地になることは自然の流れ。伊那紬においても、江戸時代より養蚕農家の女性たちが、出荷できない繭を自家用として反物に織り上げていた歴史があります。繭からそのまま紡がれた真綿で織る文化は現在もそのままに、伊那紬は緯糸を真綿で織られます。また、その当時の縞・格子がよく織られていた背景を、伊那紬は今も継いでいるのです。

風合いの妙は一本の糸から


”かせ”状の糸をボビンに巻き取る工程から糸づくりは始まる

伊那紬の軽やかな風合い、その秘密は糸づくりにあります。
久保田織染工業は、撚糸業として創業した歴史があり、工房には糸づくりのための機械が揃っています。撚糸とは、糸の回転”撚り”をつくる工程で、撚糸から織りまでの工程を一貫してものづくりできる工房は多くありません。つまり、自分たちの欲しい質感の糸を、自社でつくれてしまうのです。

合糸の機械

伊那紬の経糸には、「甘撚り」の糸が使われています。
非常にゆるやかな撚りの糸で、これが伊那紬の柔らかく軽やかな風合いを生んでいます。撚りの工程は、一本の糸を大きく束ねた”かせ”の状態からボビンに巻き取り、糸を合わせて目的の太さをつくる「合糸」、そして「撚糸」の後には、染めのため”かせ”へ戻す。4種類もの機械を通過する訳ですが、風合いを左右する糸づくりを妥協しない、ものづくりの信念が伺えます。

糸が出来上がったら、精練(絹糸の余分なタンパク質を落とす)の後に染色に移ります。

手織りまでの工程

染料となる木片

伊那谷の自然がもたらす恩恵は桑だけでなく。
染料となる草木も、出来る限り近隣から集めているとのこと。特に、やまざくら・りんごはご近所から木のまま届いたものをチップにして染料としているそうです。
その他、〔ログウッド、矢車、しらかば、カラマツ、くるみ、栗、ダケカンバ〕等を染料として染めています。

草木染の柔らかな色は、伊那紬の醍醐味でありますが、あくまでも草木染は手段であり、最終的な織り上がりの姿を優先して、化学染料を併用しながら染めは行われます。
手前の落ち着いた色味は草木染めの糸、奥の鮮やかな色は化学染料による染糸。


美しいラウンド状の整経機

整経とは、機にかける経糸の配置を決める工程です。写真には沢山のボビンが並んでいますが、伊那紬の経糸は1070本ですので、何度もボビンを掛け替えることになります。

 


久保田織染工業の2階、ずらりと機が並んでいました


高機にかけられた経糸

 

伊那紬は、全て高機の手織りでつくられます。
織り柄に合わせて、手投げ杼・引き杼の機を使い分けて織られています。
花織・絣などの織りが複雑になるものは、手投げの綜絖(経糸を開くパターンをきめる部分)の多い、手投げの機となります。

伊那紬の現在

風合いを大切にし、地域の文化を織り上げる久保田織染工業。
着尺は夏物・単衣用、名古屋帯は九寸・八寸と手がけられています。


安曇野の天蚕糸を織り込んだ単衣向き伊那紬
織柄が鮮やかな名古屋帯洗練されたデザインの着尺

仕立て方を考えるのが楽しい紬です。

最後に、デザイン帳を拝見させていただきました。


これが何冊も何冊も・・・

多種多様な織り表現に驚くばかり。
伊那紬唯一の織元であり、長野県百年企業「信州の老舗」にも選ばれている久保田織染工業さんですが、その創意は尽きることがありません。

大切な文化を守りながらも、常に新しい現在の伊那紬を更新されているのです。
新鮮な色・織柄は、紬の温かみがありつつ、”大人のおしゃれ”を愉しむことができます。

 

展示会日程

伊那紬を中心とした展示会を、本店「きもの屋そねはら」にて開催します。
会場には、久保田織染工業さんより高機をお借りして、織り体験を実施いたします。

皆さまのお越しを心よりお待ちしております。

 

『伊那紬 展』

と き 

2025年  7月26日(土) 27(日) 28日(月)
10:00 - 18:00(最終日17:00迄)

ところ 

きもの屋そねはら
長野県岡谷市南宮2-5-21
0266-22-4966

ご来場予約

スタッフ少数ですのでご来場予定をお知らせいただけますと幸いです。
お電話(0266-22-4966)または、以下きものKUREHA 公式LINEよりお願いいたします。

展示期間中は公式LINEを使った、オンライン商談も対応いたします。お気軽にお問い合わせくださいませ。

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